気難しい頑固者。つっけんどんで偏屈。第一印象はこうだった。訪問した私たちに目もくれず、黙々と出荷作業を続ける。「会いに来るタイミングを間違えたか…」しかし5分も立たないうちに、そんな態度が、シャイで口達者とは程遠い、伊東さんの性格から来ていたことがすぐわかった。まじめで実直。果物栽培に取り組む伊東さんの人となり。育てる果物が、本来の素直な味であるのもわかる気がする。

「日本にもっと果物を」の信念のもと、アメリカへ農業留学をしたという伊東さん。果物とは高級で特別なものという日本人の意識を、日常的に食べる身近な美味しいものへと変えたかったらしい。アメリカから戻った伊東さんが手掛けたのは、土に活力を与え、健康な木を育て、果物の本来の力を最大限に引き出すこと。農薬や化学肥料は極限まで抑えること。行動はあくまでも情熱的だ。

もちろん本人が話すことはなかったが。

最近人気が出始めたシャインマスカット。マスカットの香りと高い糖度、そして何よりも皮ごと食べられる。アレキサンドリアより価格も抑えめで人気の白ぶどうだ。このシャインマスカットも、伊東さんの手にかかることで更に輝きを増す。

といっても、伊東さんがすることは「見守ること」。土の状態はどうかな？木は元気かな？シャインマスカットが自分の力で大きく育つのを見守るのだ。決して過保護にはしない。

山梨南アルプス市の斜面に広がる畑で、強く美味しく育つ。

今年の自然条件は非常に厳しい。花の頃の遅霜。結実の頃からの日照不足に低温。農作物全般にいえる悪条件だが、シャインマスカットもごたぶんに漏れない。

訪問の日もどんよりとした雲から大粒の雨が降り出した。

伊東さん曰く、「今年は収穫できることすら奇跡」。

こんな条件の中でも伊東さんのシャインマスカットは「確実に」実をつけていた。木の力を十分に引き出したことで木自体が強くなる。だから生育していけるのだろう。

収穫まで、あと約1か月半。悪条件を乗りきったシャインマスカットたちがどんなできになるのか？伊東さんの実力を味わうにはまたとない、絶好の機会だ。