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Wine Columnワイン コラム

  • 伴良美のオススメ!

サン・テミリオンの名門シャトー・オーゾンヌが所有する
シャトー・シマール2003

ラベルが語るワイン物語

CDやDVDにはジャケ買い、という言葉があるように、ワインもラベルが奇麗なものや、興味深いデザインのものには、つい手がのびてしまいます。実際にワインのラベルは、ワインの歴史やエピソードを伝えるものが多く、そこにはさまざまな情報や物語が隠れています。ラベルのささやきを聞きながらワインを飲めば、いっそう美味しく楽しく感じられることでしょう。

世界遺産認定の美しい葡萄畑 サン・テミリオン

写真:葡萄畑、醸造所、美しい街全てが世界遺産に
フランス・ボルドーワインの聖地とも讃えられ、1999年、世界で初めて葡萄畑の美しい景観がユネスコ世界文化遺産に登録されたサン・テミリオン。さらにその周囲には、ポムロール、フロンサックといった、世界に名を馳せる誇り高き生産地が広がっています。今回は、東急フードショーでも充実のラインナップを揃える、サン・テミリオン、ポムロール、フロンサック地方のワインの魅力をお伝えしましょう。素晴らしい味わいと同様に、ワインのラベルひとつにも伝統や逸話が込められています。

街の由来は? 名誉ある「神のネクター」の賛辞

写真:中世の面影を残すサン・テミリオン
小さな丘の上に佇み、ボルドーの中でも人気の観光地として知られるサン・テミリオン。中世の面影を伝える美しい街の周囲には、葡萄畑と無数のシャトー(ワイナリー)が建ち並び「千のシャトーをもつ丘」とも呼ばれています。サン・テミリオンの名は「聖エミリオン」という聖人の名前に由来。数々の奇蹟を起こして多くの貧しい人々を救った聖エミリオンが、この地で隠遁生活を送り、祈りに生涯をささげたことから名付けられました。

 この地では、古代ローマ時代の紀元前1世紀から葡萄栽培が行われ、12世紀にはワインの品質を審査するジュラードという自治組織が生まれました。ジュラードは、サン・テミリオンの名を汚す粗悪なワインを造る者を、罰として棒で打ち据え、樽を焼き払うことまで行い高い品質を守り続けました。そうした厳しい品質管理はこの街のワインの名声を高め、やがてルイ⒕世の時代には「神のネクター」と呼ばれる賛辞を与えられました。

1700の生産者が力を合わせる メルロの聖地

写真:特異なテロワールが生む最高品質のメルロ
さらにサン・テミリオン地区の北側には、ポムロール、フロンサックの銘醸地が隣接し、共にボルドーが誇るワイン生産地として世界に知られています。この3つの生産地の大きな特徴は、2千年もの長い歴史の中で、黒葡萄のメルロを主体に傑出したワインを生み続けてきたこと。そのためメルロの聖地ともいわれ、粘土石灰質の特異な土壌から、果実味豊かで優雅で気品あるワインが生み出されています。

その葡萄栽培面積は12300㏊で、ボルドー全体の10%。フランス政府が認定する10の誇り高きAOCが存在し、1700以上もの生産者が活躍しています。この3つの生産地は力を合わせて、サン・テミリオン-ポムロール-フロンサック生産者組合連盟を結成。そのワインの素晴らしさを世界により伝えたいと、近年日本でも広く啓蒙活動を行っています。

多彩で豊かな味わい ジビエやキノコとマリアージュ

写真:多彩で個性豊かなワインが揃う
今年12月には3生産地のワインを比較試飲しながら、東麻布RESTAURANT L’aubeにてキノコ、牡蠣、蝦夷鹿、あんこう、トリュフ、鳩など、季節の食材を豊かに盛り込んだアートでスタイリッシュなフレンチとのマリアージュ会を開催しました。
赤ワインは、チャーミングな果実味とフレッシュな酸が美しいAOCカノン・フロンサックのChâteau Coustolle2010。サン・テミリオン衛星地区AOCサン・ジョルジュ・サン・テミリオンの芳醇で明るい果実味のChâteau Vieux Gillou 2009。AOCサン・テミリオン・グラン・クリュの緻密でスタイリッシュなChâteau de Pressac2009。さらに上位格付けのAOCサン・テミリオン・グラン・クリュ・クラッセのミネラル豊かで優雅な気品を備えるChâteau Canon la Gaffeliere2006。そしてシルクのような滑らかなタンニンと気高さに圧倒されるAOCポムロールのChâteau Gazinが披露されました。

牡蠣とも好相性 家庭で楽しむカジュアルワインも

写真:肉料理だけでなく、キノコや牡蠣やあんこうを使った料理にもマッチ。
この地方の赤ワインは、海に近い粘土石灰質土壌によって、ジビエなどの肉料理だけでなく、意外にも牡蠣などの魚貝類とも相性がよいそうです。さらに同生産者委員会のフランク・ビナールさんは「この生産地域には世界に名を馳せる格付けシャトーが綺羅星のごとく存在する一方で、それにも負けない素晴らしいワインを造る家族経営の小さなワイナリーも数多くあり、どなたにも手の届く価格帯で質の高いワインが生産されています。脈々と受け継がれた長い歴史の中で豊かな自然を守りながら、日々の畑仕事を丹念に行う情熱ある生産者たち。彼らが造る素晴らしいワインを日本の食卓でも、ぜひお楽しみいただきたいです」と笑顔で伝えました。

オーゾンヌの当主が愛したカジュアルワイン

東急フードショーの売り場でも、現在、幅広い価格帯で、サン・テミリオン-ポムロール-フロンサック地方のワインを豊富に取り揃えています。中でもおすすめは、2000円台という驚くべきコストパフォーマンスの「シャトー・シマール2003」。なんとシマールはサン・テミリオン最高峰の第一特別A級に格付けされる「シャトー・オーゾンヌ」の当主アラン・ヴォーティエ氏が所有する秘密蔵ともいえるシャトー。さらに、ラベルに描かれている瀟洒な建物には、実際にヴォーティエ氏が住んでおり、その思い入れの強さがうかがえます。また、住居を移しただけでなく、基本的に栽培から醸造までオーゾンヌと同様の哲学で行われています。

コストパフォーマンスに優れたポムロールの逸品

写真:サン・テミリオンの最高峰、第一特別A級に格付けされるシャトー・オーゾンヌ
もう一つおすすめが「シャトー・ランクロ2005」。AOCポムロールの最西にある知られざるシャトーです。メルロの栽培に最適な、砂と砂利と火打石の土壌から高品質で芳醇なワインを生み出しています。世界的にポムロールのワインは、収量が少なく非常に人気が高く、価格も高騰していますが、このシャトーは価格を抑えた高いコストパフォーマンスが魅力です。小さな生産者ですが、平均樹齢40年の古木を丹念に手入れしながら葡萄栽培に力を尽くし、よく温度管理された高い醸造技術によって素晴らしいワインを生み出しています。

東急フードショーのおすすめ

[写真:左]
シャトー・シマール2003
(750ml) 2,592円


生産地:フランス ボルドー地方 サン・テミリオン
葡萄品種:メルロ80%、カベルネ・フラン20%
味わい:辛口・赤・フルボディ

世界遺産にも認定されるワイン産地サン・テミリオンの中でも、最高格付けに位置するシャトー・オーゾンヌが手掛けるワイン。畑はオーゾンヌのすぐ近くに位置し、オーゾンヌの情熱と哲学を受け継いだワインを、カジュアルに手軽な価格で楽しんでほしい、との思いから生まれました。グラスに注いだ瞬間にブルーベリーや赤いバラのような華やかな芳香が立ちのぼり、時間とともにスパイスやハーブなどの心地よい熟成香が現れます。濃淳ですがタンニンは緻密で果実味によく溶け込み、深い気品と果実の滑らかさをあわせもつ、コストパフォーマンスの高いワインです。子羊のグリル、牛肉の赤ワイン煮、チーズ料理、牡蠣を使った料理ともお楽しみいただけます。


[写真:右]
シャトー・ランクロ 2005
(750ml) 5,400円


生産地:フランス・ボルドー地方 ポムロール
葡萄品種:メルロ79%、カベルネ・フラン19%、マルベック2%
味わい:辛口・赤・フルボディ

メルロの聖地ともいわれるポムロール地方の最西に位置するシャトー・ランクロ。平均樹齢40年の10.5㏊の葡萄畑を38区画に細分化し、区画ごと管理しながら丹念な葡萄栽培を行っています。1ha当たり38hℓととても収量を抑えて、ビロードのように滑らかなタンニンと、リッチでふくよかな果実味、ブラックベリーのような果実の凝縮感を表現し、優雅に熟成した気品あるワイン。ポムロールの熟成ワインをこの価格帯で堪能できるのは非常にうれしいこと。子羊や赤身肉のグリル、牛肉の赤ワイン煮、キノコを使った煮込み料理などとお楽しみください。

著者近影

伴 良美(ばん・よしみ)

ライター&ワインエキスパート。映画、食、旅を中心に執筆。ワインと食の情報誌「ヴィノテーク」、北海道新聞、岐阜新聞などの取材記者としても活躍。世界の銘醸地や映画の舞台を訪ねた連載コラムに、フジサンケイビジネスアイ「世界銘酒紀行」「名画の舞台」のほか「男と女 名画とお酒」「シネマの名言」などがある。