クロ・ド・タールはモレ・サン・ドニの南端に位置する7.53haのグラン・クリュ。今日まで900年近くの間、一切細分化されていない。クロ・ド・タールの歴史は1141年まで遡り、シトー派に属するタール女子修道会によりこの畑が築かれた。フランス大革命で国庫に没収されるまでこの修道会に属し、1791年に売りに出されると、マレ・モンジュ家がこれを買い取った。そして1932年にモメサン家の手に渡る。1932年以来、モメサン家の単独所有であったが、1997年にモメサン家はそのネゴシアン部門をジャン・クロード・ボワセ・グループに売却。ただし、その時は一族の至宝であるクロ・ド・タールだけは手放さなかった。2017年、シャトー・ラトゥールなどを所有するフランソワ・ピノーグループが買収し、クロ・ド・タールは2018年1月1日をもって経営がモメサン家からフランソワ・ピノーグループ直轄のアルテミス社傘下になった。一時期、評価を著しく落としたクロ・ド・タールではあるが、ジャック・プリウールで働いていたシルヴァン・ピティオが1996年に支配人として抜擢され、品質をかつてないまでに高めた。1999年には醸造施設を刷新。醸造法にも若干変更がみられ、以前の完全除梗から、年に応じて全房のブドウを加えるようになった。ピティオ氏の後任として2015年に就任したクロ・ド・タールの総責任者であったジャック・ドゥヴォージュ氏は買収後も、つくりの責任者としてドメーヌに在籍していたが、2019年にドメーヌを離れ、シャトー・グリエで醸造責任者を務めたアレッサンドロ・ノリ氏が引き継いでいる。クロ・ド・タールの畑は300mX250mの長方形をしており、標高270?300mの東南東向き斜面にある。興味深いのは、コート・ドールの畑では珍しく、畝の方向が斜面に対し平行なことだ。この畝の並びの利点は、雨による土壌の流亡防止。それから、朝日の面と夕日の面に太陽が当たるため、夏に東側を除葉する一方、西側の葉を残しておけば、柔らかな朝日をたくさん浴びつつも、西日による日焼けを防ぐことができるのである。その反面、トラクターを用いた機械化が難しく、農作業は人の手に頼らざるを得ない。現在、アルテミス社の傘下でさらなる醸造設備、施設のリノベーションが行われ、ますますの品質向上が期待される。