春満開 スペインの大地に咲き誇る桜を描く ファン・ヒル クアトロ・メセス 2017
ラベルが語るワイン物語
CDやDVDにジャケ買い、という言葉があるように、ワインもラベルが奇麗なものや、興味深いデザインのものには、つい手がのびてしまいます。実際にワインのラベルは、ワインの歴史やエピソードを伝えるものが多く、そこにはさまざまな情報や物語が隠れています。ラベルのささやきを聞きながらワインを飲めば、いっそう美味しく楽しく感じられることでしょう。
春本番、桜の開花も待ち遠しい季節となりましたね。今回はお花見や桜のシーズンにふさわしい、日本限定の桜ラベルのスペインワインをご紹介しましょう。
“セレッソ”の丘に咲く満開のサクラ
写真：白い石灰質土壌の丘にみごとに咲く桜の花
ラベルには華やかに描かれた満開の桜の樹。美しく舞う花吹雪が春到来の喜びを表現しているかのようですね。桃色の優しいタッチで書かれた生産者の名前は「JUAN GIL（ファン・ヒル）」。スペイン中央部のフミーリャで、4世代に渡ってワイン造りに励む家族経営のワイナリーです。ここはモダンスペインの旗手として、この地方が誇るモナストレルの黒葡萄で気品あるワインを生み出し、フミーリャを世界的な高級ワイン産地に押し上げた偉大な生産者です。
実はこのワイナリーの葡萄畑の近くの丘が、スペイン語で桜を意味する「CEREZO（セレッソ）」という名前。オーナーのミゲル・ヒルさんは「その丘には桜の木があり、毎年美しい花を咲かせます。また、私の妻の名前でもあるのです。私達と同じ桜を愛する日本の皆さまのために、ワインには特別に桜ラベルをデザインしました。ぜひ満開の桜と共に楽しんでくださいね」と伝えています。
“天井の果て”と呼ばれる海抜700ｍの畑 豊かな太陽が育む凝縮感のある葡萄
写真：高標高の畑では高樹齢の古木が大切に守られ、ワインに凝縮感とエレガンスを与えている。
フミーリャはオレンジの栽培でも有名な、バレンシア地方の南に位置する歴史あるワイン生産地。中でもファン・ヒルの畑は、「テルミノ・デ・アルバ（天井の果て）」といわれ、スペインの中でも標高が特に高い700～850ｍ。夏には豊かな太陽が照りつけ気温は40℃以上になるほど暑く、年間日照量は3000時間。一方で降水量は年間わずか300㎜と非常に乾燥しています。
畑はゴロゴロとした白い石の多い石灰質土壌の痩せた土地です。しかし、こうした厳しい条件の中でたくましく育った葡萄は、実が引き締まり凝縮感があって果皮も厚く、ワインには豊かなアロマと深みのある果実味がもたらされます。
リッチで豊かなアロマ 世界最高峰のモナストレルの産地に
写真：モナストレルの葡萄を愛し、フミーリャを世界レベルの高品質ワイン産地に押し上げたミゲル・ヒルさん。
フミーリャの真っ白な大地に、最もよく合った土着品種がモナストレルの黒葡萄。長い歴史の中で大切に育てられてきた高樹齢の古木が数多く残っています。ヒルさんは、故郷が誇るこの葡萄から、世界にも誇れる最高峰のワインを造ろうと切望しました。そして、現代スペインワインの立役者でもある天才醸造家クリス・リングランドを監修に迎えて、大プロジェクト「エルニド」を立ち上げます。
この地方の気候、テロワール、葡萄をこよなく愛す彼らのワインは、評論家のロバート・パーカーから「魅力的な高品質ワインを驚くべき価格で世に出している。中でも上級キュヴェの“シルバー・ラベル”は価格が5倍の一流ボルドーにも匹敵するワイン」と賛辞され高い評価を与えられました
ギア・ペニンで94ポイントの高評価 バリック熟成の気品と濃淳な果実感
写真：モナストレルの葡萄からのワインは、満開の桜の季節にもふさわしい芳醇で華やかな味わいをもつ。
桜の美しい木を描いたこのクアトロ・メセスは、シルバー・ラベルのいわゆるセカンドワイン。しかし、非常にコストパフォーマンスに優れ、スペインで最も権威あるワイン評価本ギア・ペニンでは、94ポイントもの高得点を獲得しています。
美しく熟したチェリーやプラムのような果実感、なめらかでエレガントなテクスチャー。そして、クアトロ（＝４カ月間）、フレンチオークとアメリカンオークで樽熟成することで気品と風格を備えています。まさに豊饒の春にふさわしい豊かで流麗な風味を湛えたワイン。美しいラベルとともに春の訪れを喜びながら、家族や友人とぜひお楽しみいただきたいワインです。
（写真協力：フィラディス）
東急フードショーおすすめ
ファン・ヒル クアトロ・メセス 2017
(750ml) 1,728円
生産者：ファン・ヒル
生産地：スペイン・ＤＯフミーリャ
葡萄品種：モナストレル100％
タイプ：赤・辛口・フルボディ
輸入元：フィラディス
1916年にファン・ヒル・ヒメネスによって設立され、4世代に渡ってワイン造りを続けるフミーリャを代表する生産者。スペインの土着品種モナストレルのポテンシャルを最大に表現したワイン「シルバー・ラベル」を生み出し世界にその名を知らしめました。このクアトロ・メセスは、シルバー・ラベルと同じ畑で生まれ、キュヴェ選別したもので、バリックでの熟成期間を4カ月と短くすることで、早飲みも可能ななめらかでカジュアルなスタイルに仕上げたものです。非常にコストパフォーマンスに優れ、色調が濃く、チェリーやプラムのジャム、黒系スパイスやスモークのヒント。完熟したなめらかな果実味がアタックから感じられ、細やかなタンニンとオークのニュアンスの骨格が味わいをしっかりと支えています。気品あるオークのニュアンスに彩られた、ファン・ヒルの濃厚な果実感が堪能できます。
伴 良美（ばん・よしみ）
ライター＆ワインエキスパート。映画、食、旅を中心に執筆。ワインと食の情報誌「ヴィノテーク」、北海道新聞、岐阜新聞などの取材記者としても活躍。世界の銘醸地や映画の舞台を訪ねた連載コラムに、フジサンケイビジネスアイ「世界銘酒紀行」「名画の舞台」のほか「男と女 名画とお酒」「シネマの名言」などがある。