2022.11.07

「秋の夜長、やさしく寄り添ってくれる夜の絵本」

Column

 5冊だけの本屋という女性向け選書サービスを行っておりますミホコです。

 「寝る前に読んでもらう絵本のストーリーの終わりがあたたかいものだったら、子どもたちは一日をとっても幸福に感じるでしょう。そして心地よい眠りにつけるはずです」

 これはミッフィーの生みの親でもあるディック・ブルーナさんの言葉です。毎日、大人も子どももいろいろあります。どんな一日でも、夜眠る前に心温まる絵本をゆっくりゆっくりと読んでいると、一日の緊張の糸がほどけて自然とリラックスしてきます。彼の言葉にあるように、それが幸福や心地よい眠りに繋がるのだと思います。この連載では、眠りにつく前にぴったりな心温まる絵本とそれにつながる5冊をご紹介します。

夜には、やさしく寄り添ってくれる絵本を。

 幼い頃の私にとって「夜」といえば、どこか物さびしくて、ちょっと怖い。そんなイメージでした。夜中に目が覚めてしまったとき、近くに母がいないとこの世の終わりのような気になりました。夜中に一人でトイレに行くのも怖くてたまらなかったです。そんな臆病者で寂しがり屋な幼少期の自分を癒すように、今でも、夜にはやさしく寄り添ってくれる絵本や明るい気分になる絵本をついつい手に取ってしまいます。


 夜の絵本でまず頭に思い浮かぶのは、長年愛されている名作『よるくま』です。何度読んでも傑作だと感じる絵本です。お母さんを探し続けていたよるくまちゃんが、いよいよお母さんを見つける場面。仕事を終えたお母さんは、「ああ あったかい。おまえは あったかいねえ。きょうは このまま だっこして かえろう」と、よるくまちゃんを抱っこして帰るのですが、この時期の寒さも相まってグッときます。母親に見守られながら眠りにつく子どもの安心感、幸福感。夜のさびしさを描きつつも、母親への揺るぎない愛情をより一層認識させられます。お子さまだけでなく、働くママたちにとってもジーンとくる一冊です。

『よるくま』酒井駒子 偕成社


 『よるはおやすみ』は、女の子が寝る前にいろんな人に「おやすみ」を言いに行く物語。家族や友達、それから海の魚たちや草原を走るどうぶつ、さらにはお月さまにも「おやすみ」を。シンプルでリズミカルに繰り返される「おやすみなさい」という文章。そして、真っ黒な背景にカラフルなパジャマに身を包んだ表情豊かな子どもたちの絵がページいっぱいに描かれていて、まるで海外絵本のよう。ぱらぱらと見ているだけで明るい気分になってきて、たのしい夢が見られそうな絵本です。

『よるはおやすみ』はっとりさちえ 作 福音館書店


 『よるです』は、夜にひとりでトイレに行くのが怖いすうちゃんの物語。お母さんとお父さんも起きてくれず困っていると、突然毛布がばくになり「こわがらないで。ぼくがいっしょにトイレについていってあげる」と言います。そして、ばくと一緒に夜のトイレへ向かうすうちゃん。ラストの暗がりに浮かぶ光り輝くお月さまは圧巻。独創的でちょっと不気味だけどきらきらとした絵とユーモアたっぷりで思わず笑ってしまう物語に、真っ暗な夜が明るくなり、怖さが和らいでいきます。絵本には、夜のトイレに持って行けるお守りのおまけつきです。

『よるです』作・絵 ザ・キャビンカンパニー 偕成社


絵本とつながるおとなのための2冊

 仕事から帰宅して、家のことを済ませたりお子さんが眠りについたりしてひと段落するころには、日中の喧騒が嘘みたいに夜の静けさが広がります。そんな夜には、ふと自分と向き合うひとり時間ができたりします。そんな時には、ぜひことば集とやさしい物語を読んでみませんか。

 糸井重里さんによる小さなことばシリーズ『夜は、待っている。』は、そのタイトルと『よるくまちゃん』の作者でもある酒井駒子さんの挿画がまさに夜にぴったりの一冊。やりたいことはもっとある、やるべきことはもっともっとある、でも今日もできなかったことは多いと途方に暮れる夜もあります。そんな時に、「夜になると、『じぶんにできることの少なさ』を、感じます。」という言葉が、不甲斐ないと落ち込む自分から、今のありのままの自分を受け入れるきっかけをくれます。できることは少ない、けれども今の自分にできることをコツコツと積み重ねていこうと。パラパラと捲ると、今日の自分を癒し、明日の自分を励ます言葉ときっと出合えます。

『夜は、待っている。』糸井重里 ほぼ日ブックス


 夜の一人時間に、丁寧に淹れた珈琲をお供に楽しみたい『つむじ風食堂の夜』。不思議な帽子屋さん、雨降りの先生、いつも読書している八百屋の主人、主役になれない舞台女優など、個性豊かな人々が集う夜の食堂を舞台にした物語。とにかく静かで優しい世界観がじわじわと広がります。「いや、人間てのは、そもそも自信が持てない生きものなんです。それがいいとこなんです」。育児と仕事の間で、自分の仕事の価値と自信が揺らぐ日もある。そんな、不安に覆われた夜にやさしく寄り添ってくれる物語です。

『つむじ風食堂の夜』吉田篤弘 ちくま文庫


大人も、子どもも、今日の自分を癒し明日が楽しみになる本を。

 夜、寝る前には落ち込んだ自分をやさしく受け止めてくれる本を読みたい。明日がたのしみになるようなワクワクする本を読みたい。それは、大人も子どもも同じかもしれません。秋の夜長、寒さと静けさが広がる部屋であたたかい灯りの下、読書時間が幸せなひとときになりますように。

 それでは、今夜もすてきな絵本時間をお過ごしください。

5冊だけの本屋 ミホコ

2015年に女性のための選書サービス「5冊だけの本屋」をスタート。お客様のSNSを拝見して、今のお客様にぴったりな5冊を選書している。本好きな女性にも、普段本を読まない女性にも、読書を楽しんでもらうために活動中。

「5冊だけの本屋」ミホコの今日もハッピーエンド。