2023.10.30

ブックハウスカフェ店長、茅野由紀さんに聞く「絵本のススメ」

Column

子どもにとって絵本の存在とは?そもそも絵本の魅力とは? “本の街”神保町にある、こどもの本専門店&カフェ「ブックハウスカフェ」で店長を務める茅野由紀さんに、絵本に込めた思いからお店の特徴まで詳しくお話を伺いました。

絵本を好きになった、そのきっかけは?

―茅野さんが絵本を好きになったきっかけを教えてください。

茅野さん:物心つく前から絵本がそばにあり、自宅で絵本と触れ合うのが当たり前という生活をしていたので、好きかどうかも意識しないくらい自然と好きになっていました。そういった環境を作ってくれた親には、感謝しています。

―根本的な質問ですが、絵本の魅力はどんなところだと思っていますか?

茅野さん:0歳から130歳まで、誰もが楽しめるところです。それが可能な唯一のジャンルだと思います。そして年齢だけでなく、国境も超えるところ。その国の文字が読めなくても、絵を見ていれば物語がなんとなく浮かび上がってきたり、その国や土地の文化が透けて見えるのも、絵本の大きな魅力だと思います。いわば“親善大使”のようなもので。

子どもにとっての絵本の存在、絵本の役割

―では子どもにとって絵本とはどんな存在で、どんな役割があるのでしょうか。

茅野さん:個人的には、その子の人間としての根幹を形作るために必要なもののひとつだと思っています。絵本はファンタジーやフィクションの世界を描いているものも多く、それを見て、読んで、頭の中で想像することが重要だと思っていて。私は小児科医でも脳科学者でもないので専門的なことは言えませんが、フィクションの世界を楽しむことは子どもにいい影響を及ぼすと信じています。とにかく、たくさんの絵本と出会って楽しんでほしいです。

―茅野さんもお二人のお子様(中学1年生の女の子と小学5年生の男の子)がいらっしゃいますが、親目線での実体験として絵本に関するエピソードなどはありますか?

茅野さん:0歳から楽しめる本を「赤ちゃん絵本」とジャンル分けしていますが、我が家の赤ちゃん絵本には子どもの成長の軌跡が凝縮されていて。破るわ、かじるわ、落書きをするわで、当時は大切な本がこんなになってしまって…と嘆いていたんですが、大事にとっておいて、大きくなってから改めて子どもといっしょに見てみたら、「僕、こんな本で喜んでた?」と、自分の成長を実感している姿を見られたり、「この落書き、私がしたの?」なんて言って、思い出語りができたんです。まるでアルバムのように。そういう機会をもたらしてくれるのも絵本ならではですよね。あのとき怒らずに耐えてよかったです(笑)

―茅野さん自身、「絵本があってよかった」と思うのはどんなときですか?

茅野さん:書店や図書館で見かけた本に、「あれ?これ読んだことがあるかも」というデジャブを感じるようなことがよくあるんです。でも、実はデジャブではなく、単に忘れていた過去の記憶がよみがえっただけでした。幼馴染に再会したような、不思議な感覚ですが、そんな体験ができるのは、小さい頃にたくさん絵本を読んだから。幼馴染がたくさんいて、心強く思いますし、その中には親が読んでくれた本もたくさんありました。私が忘れている子ども時代を、絵本が覚えていてくれる、そんな感覚を抱けるのは貴重だなと思いました。

「ブックハウスカフェ」って、どんなお店?

―ではお店のお話も聞かせてください。こちらの「ブックハウスカフェ」はどんなお店なんでしょうか。

茅野さん:書店は「本と人が出会う場所」ですが、それに加えて「人と人が出会う場所」になっているような気がしています。お客様同士がコミュニティを作っていたり、作家さんと編集者さんが出会ったり。そしてもうひとつ大切にしていることは「多様性」。年齢も性別も国籍も宗教も何も関係なく、みんなで楽しめてみんなが集える場になりたいと思っています。

―店内には国内外を問わず1万冊ほどの絵本があるとのことですが、どんなこだわりを持って選んでいるんですか?

茅野さん:“こだわりがないのがこだわり”といいますか。スタッフが「良い絵本」と考える本だけを集めるのではなく、より広い選択肢をご提案し、選ぶ側の主体性を信じて自分だけの良い絵本を見つけてほしいという願いもこめて、セレクトしすぎないセレクトを心がけております。

店内には、所狭しと絵本が並びます。通路はベビーカーでも移動しやすい設計に。授乳・おむつ替えスペースも設けられています。
―なるほど、それがお店のコンセプト「多様性」にもつながるんですね。

茅野さん:はい。「日本人の目に馴染んだイラストレーションでない」とか、「分かりにくい」「子ども向けではない」という主観の部分を、お店側で主張し過ぎないことを心がけています。できれば子どもたちには、「多読」をしてほしい。たくさんのものに出会う、その経験からしか得られない「自分だけの判断力」を大切にしてほしいと願っています。それを後押しすることの方に、より力を入れています。

―本の販売だけでなく、カフェスペースやギャラリーがあるのも特徴的ですよね。

茅野さん:店内の構成としては、商品棚に囲まれるように中央にカフェスペースがあり、お店の奥には2つのギャラリー、そして2階にもレンタルギャラリーがあります。

店内中央のカフェスペース。天井には可愛らしい太陽と月のイラストも。
お店の奥には小さなサイズのギャラリーとカフェスペースも兼ねたギャラリーが。
―店内でイベントも開催しているんですか?

茅野さん:以前からイベントには力を入れていて、年間400本ほど開催した年も。そうそう、個展を開催したある作家さんは、毎日在廊される際に2歳のお子さんを連れていらしていて、毎日昼下がりにはギャラリーの片隅にマットを敷いてその子がお昼寝している姿が!「子連れ在廊」ができるギャラリーだね、なんて楽しい会話をしました。

―可愛い(笑)。ほのぼのしますね。

茅野さん:お客様も皆さん温かい目で受け入れてくださって。絵を観ようと思って中に入ったら子どもが寝ていた、なんてなかなかユニークですよね(笑)

店内にあるBARは、まさに多様性の象徴

―そして何やら、こちらの店内にはBARもあるとか?

茅野さん:はい、お店の奥にBARスペースを設けて営業しています。ビジネススーツを着た方など、一見絵本屋さんとは縁遠いようなお客様がいらっしゃる空間でもあるので、多様性というお店のコンセプトを体現する場所でもありますね。

こちらがBARスペース。絵本屋さんの店内とは思えない雰囲気です。
―絵本店さんとBAR…たしかにちょっと結びつきませんが興味深いです!

茅野さん:お店の裏側に入り口があるので隠れ家感もあります。通常のカフェスペースも夜には照明を落としてすべてBARとして営業するので、本に囲まれたナイトミュージアムみたいでとても雰囲気がありますよ。本屋とカフェの通常営業は夕方6時に終了し、平日の8時からバーがオープンしますので、気になった方はぜひ一度ご来店ください!

―では最後に、これからチャレンジしていきたいことを教えてください!

茅野さん:まだイメージの段階ですが、絵本から一番離れてしまう年代である中高生に向けて絵本を薦める活動ができればと思案しています。大人と子どもの狭間で精神的にも不安定になりがちで、ちょっと閉塞感もある年代だと思うので、絵本が上手く“逃げ場”になれたらいいなと。2020年からは「ココロノホンダナ」と称して、絵本を通じてすべての人と一緒に楽しむ活動を始めました。いろんな人に開かれた場所になることを目指し、たとえば子ども食堂の本屋版みたいな、中高生も含めた子どもの居場所が作れればとおぼろげながら考えています。



来月からは2回にわたって、茅野さんがセレクトした年齢別のおすすめ絵本をご紹介します。そちらもどうぞお楽しみに!

教えてくれた人

茅野由紀さん/こどもの本専門店&カフェ ブックハウスカフェ店長

取材協力:ブックハウスカフェ
千代田区神田神保町2-5 北沢ビル1F
電話番号 03-6261-6177
営業時間 11時〜18時(年中無休)