2023.12.18

茅野由紀さんがナビゲート|年齢別おすすめ絵本【4歳、5歳、6歳向け】

Column

園では年長さんに近づいていく年代。赤ちゃん期から遥か遠くまで来た……そんな風に思えるほど、ぐぐんと心も体も伸びていく子どもたち。会話も増えて、社会のことも理解し始める姿が愛おしい。そんな実世界と、子ども時代独特のファンタジー界との狭間を、自由自在に行ったり来たりできる時期でもあります。面白い言い回しをするのもこの時期。カチンコチンに固まった社会常識に囚われた我が身。
望んでももう戻れない子どもの日々の彼らをとてもうらやましいなあ、その日々を大切にしてほしいなあ、なんて思います。

● 4歳さんへ

生活リズムが整いはじめ、運動能力もめきめきと発達していくのと同時に、大人との会話を楽しめるほどに語彙が豊富になっていく4歳さん。一緒に楽しめる絵本が爆発的に増えて、この時期はまさに「絵本盛り」。何を読んでも楽しくて、つい手あたり次第に読みたくもなるし、お気に入りの絵本を見つけては毎日同じ本を読んだりも。ページの隅々まで眺めたり、筋を追ったり伏線を回収したりと、楽しみ方のバリエーションを考えてオススメしてみました。

「ゆるせないーーー!」絵本にあるまじき暴言か、はたまた、カタルシスか!?

ほげちゃんは、ゆうちゃんのお気に入りのぬいぐるみ。踏まれたり齧られたり、お尻の下でおならをかけられたり……「愛されるぬいぐるみあるある」ではあるものの、ゆうちゃん一家の狼藉に、ある日怒り爆発のほげちゃんがとった行動とは!?
人間のいないところでここぞとばかりに口汚く罵る、かわいいぬいぐるみのほげちゃんに思いっきり感情移入して読み上げると、こちらも心なしかスッキリするような……。

『ほげちゃん』(やぎたみこ/偕成社)
底なしの愛情表現を、愛しい人へ

ブルッキーと飼っている子羊との温かで詩的な日々をつづった絵本。お互いに大好きで、高め合っている二人の姿は、飼い主とペットの関係だけでなく、親子、恋人同士、親友など、何にも当てはまるような気がします。そこにあるのは、ただ人として相手を尊重する姿勢。私には、子羊の姿が、ちょっと不器用な我が子に重なるように感じました。大事なお子さまと一緒に読めば、絵本を通して「あなたのことが大切」と自然に伝わるような、小さな宝物です。

『ブルッキーのひつじ』(作・絵: M.B.ゴフスタイン/訳: 谷川 俊太郎/ジー・シー・プレス)
二段オチ……と思いきや、もう一段!面白さの上塗り

せなけいこさんの描くお化けは、子どもの友だち。怖いけれど、どこかマヌケでチャーミングなお化けです。食いしん坊のうさこが作るてんぷらの衣に、うっかり浸かってしまい、油で揚げられそうになるお化けの運命やいかに!?
何度もオチが訪れ、最後にもう一度ダメ押しの山場!子どもの心を何度もノックしてくれる、愉快な本です。上質な落語を聞いたみたいな読後感がたまりません。

『おばけのてんぷら』(作:せなけいこ/ポプラ社)
「もっかい読んで!」いつでもどこでもそんな声があがる本

今日は月に一度のお買い物の日。バムとケロは市場へお出かけします。市場へお買い物するなんて、大人も子どももワクワクする設定ですよね!特にこの絵本シリーズは、ページの隅っこまで細かく書き込まれているのがチャームポイントの一つなので、たくさんの物であふれている「市場」を描いたらそりゃあもう、魅力的でない訳がありません。いろんなお店に並んでいるものを見て回るのも楽しいし、サイドストーリーなんて、いくつもあるという、実に欲張りな絵本で、「もっかいもっかい」の嵐です。

『バムとケロのおかいもの』(作:島田ゆか/文溪堂)
不思議な魅力いっぱいの、韓国発の絵本

幼稚園が嫌いだった「とげとげウサギの子」が、クマ先生に一目ぼれしました。大きくなったら、先生と結婚すると宣言するウサギの子。とげとげになってしまうウサギの気持ちにもなんとなく寄り添いながら、クマ先生にプロポーズする気持ちにもうなずけたり。幼稚園の子どもたちは、きっと組のお友だちの誰かになぞらえて、または、自分をとげとげウサギの子と重ねて、読むのでしょうか。幼稚園の一日を、じっくり眺めて楽しめる本です。
今世界で注目を浴びている、私も大好きな韓国の絵本。本国でも大人気の作家さんの絵本邦訳です。

『にんじんようちえん』(作:アンニョン・タル/訳:ひこ・田中/ポプラ社)

● 5歳さんへ

言語能力がさらに発達し、ダジャレやクイズなどもどんどん得意になっていく時期。記憶力も発想力も想像力も高まっていきます。遠い国、遠い宇宙に思いを馳せたり、ナンセンスの不可思議な面白味に触れたり、ボケツッコミのようなやり取りができたり。遊び心のある絵本で、親子ともに同じ目線で楽しめるような絵本を集めてみました。

星から星へと不思議な旅。1冊で2度楽しめちゃう!?

星へ行く宇宙船から見た景色、宇宙空間や、星の輝き、降り立つ星の姿などが壮大に描かれて何より楽しい。宇宙への旅は、子どもたちもワクワク。1冊ページをすべてめくり終わり、星へ行くお話を終えると、今度は本をくるりとひっくり返す。すると不思議なことに、同じ絵なのに、今度はそこから「星へ帰るお話」に早変わり。
最初に読んだ時は、そのしかけの独創性、鮮やかさに度肝を抜かれました。全くよくできている絵本です。百聞は一見に如かず。ぜひ手に取って、その面白さをお子さまと一緒に体験してほしいものです。一册で二度おいしい絵本♪

『いってかえって星から星へ』(作: 佐藤 さとる/絵: 田中 清代/ビリケン出版)
心に残る絵本として挙げる人が多かった思い出の絵本

図書館に、ライオンが来たらどうします? 当然あわてると思いきや、決まりを尊重すれば誰でもどうぞの図書館長は、お行儀のよいライオンを快く受け入れます。利用者もライオンに寄り添い時間を楽しみます。ある事件の前までは。
絵本の講師として学校に教えに行った時、今20歳前後の学生さんたちに、思い出の絵本を尋ねたら、この本を挙げる人が多数だったことがありました。本を楽しむ図書館という場所のこと、公共図書館の存在意義、人権、といった様々なテーマを含み何層にもなる深みのある物語に、心をぐっと掴まれたからかもしれません。

『としょかんライオン』(作: ミシェル・ヌードセン/絵: ケビン・ホークス/訳: 福本友美子/岩崎書店)
子どもも大人もおおはしゃぎ!選ぶのって、楽しい♪

きみんちの周りが変るとしたら「大雪」「洪水」「ジャングル」ねえ、どれがいい?
そんなハチャメチャな質問が次々繰り出され、「え~どれもやだ!」と子どもたちも大騒ぎ。ごく稀に、ほんわり優しい選択肢も差し挟みながら、最後まで基本的には強烈な選択肢の連続で、盛り上がること間違いなし。読み終えたら、子どもと「我が家バージョン」の「ねえ、どれがいい?」を作って遊ぶとさらに、楽しいですよ!

『ねぇ、どれがいい?』(作: ジョン・バーニンガム/訳: 松川 真弓/評論社)
鮮やかなユーモアか、シュールレアリスムの世界か

頭がゴムでできたポンたろうが飛んできて、山にポン!とぶつかるとボールのように飛んでいく。ゴムだから、痛くない。
しょっぱなから、読み手を翻弄する絵本。ざわつく大人たち。「なぜ、ゴム?」「どこから飛んで来たの?」なんてちょっと心もとない表情の大人を尻目に、子どもはわいのわいのと大喜び。そこにはナンセンスを奥底から、なんのしがらみもなしに純粋に楽しめる、柔軟な子どもの姿がありました。
大人はつい、細かく考えちゃうのが悲しい性。子どもたちの楽しそうな姿を見ていると、こちらもつられて笑っちゃう。子どもに、楽しみ方を教えてもらう絵本、なのかもしれません。

『ゴムあたまポンたろう』(作:長新太/童心社/1998)
同音異義語の楽しさを存分に

相撲を「とっています」。相撲をとりながらちょうちょを「とっています」。ちょうちょをとりながら足を「とっています」。そんな「とっています」の同音異義語でつながる絵本。
「とっている」に、こんなにバリエーションがあるとは驚きます。市原淳さんのスタイリッシュで色鮮やかなイラストが軽快なお話にぴったり。

『とっています』(作;いちはらじゅん/世界文化社/2021)

● 6歳さんへ

園では最年長で、年下の子どもたちのお世話係をしたり、園を代表したりと大活躍。そして小学校に入学と、大きなジャンプの6歳さん。だいぶ親の手を借りずにできることが増えてきました。子どもたちの自立心と、甘えたい気持ちとを、じょうずに見守っていかれたらどんなによいことでしょう。絵本は、子どもの成長を見守ってくれるほか、親子関係づくりにも、強い味方になってくれますよね。

映画にもなった大ベストセラー「20世紀最高の絵本」の称号

おおあばれのマックスに、ママは大怒り。部屋に閉じ込めてしまいます。しかし、ちっとも反省しないマックス。すると部屋から、木が生え出して森になり、波が打ち寄せて船がやってきた。マックスは大海に漕ぎ出した。着いたところは「かいじゅうたちのいるところ」。かいじゅうたちを引き連れて愉快な日々を過ごすマックスは、さて、どうなるのでしょう。
子どもの内面を描いたとされる不朽の名作です。また、親のありかたも考えさせられるストーリーで、複数のメタファーが絡み合い、深みのある1冊となっています。

『かいじゅうたちのいるところ』(作: モーリス・センダック/訳: じんぐう てるお/冨山房)
文字がない絵本を想像しながら読むのが楽しい

少女が赤いマーカーで部屋の壁に扉を描くと、扉が開いた。その向こうは冒険への入口、魔法の始まり。赤いマーカーが連れ出す、見たことのない世界への冒険へ。
文字のない絵本で、読み聞かせというよりは、親御さんがお子さまへしっとりと絵を眺めながら一緒に味わい読んでほしい本です。

『ジャーニー 女の子とまほうのマーカー』(作: アーロン・ベッカー/講談社)
ゲーム感覚で楽しめる1冊

世の中には、たくさんの「ピンチ」がある。ピンチに遭遇しない人はいない(と、思います)。ワクワクもするけれど、やっぱりピンチはできたら、無い方がいいみたい。そんな人に、お勧めの1冊です。
ピンチの「レベルの大きさ」と、5段階の「なりやすさ」を具体的なピンチ例とともに表示してあるから、心の準備ができて、ちょっぴり安心。そして徐々にピンチ度が大きくなって……最後は最高の笑顔で締めくくり。

『大ピンチずかん』(作:鈴木のりたけ/小学館)
とても静かな絵本。抽象的で、深みのある本にもぜひ挑戦!

海に行ったら、貝殻をさがす人も多いでしょう。そっと鳴らしてみるとチリン。何の音?中には小さな宝物が入っているかもしれないし、別の世界が開かれているかも。貝殻の向こうにある世界は無限の可能性を秘めていて、読み手に想像力の自由を提案してくれているよう。
構成の匠、たかおゆうこさんの紡ぐ物語の広がりは、心をそっと動かしてくれる存在です。静かにたゆたうような味わい深い絵本を、次第に楽しめるようになるといいなと願っています。

『うみのたからもの』(作:たかおゆうこ/講談社)
ダジャレの応酬、でも感想は「うまいなあ~」

植木鉢がありました。土を入れて、好きな物を植えてみました。さて、いったい、何が出てくるでしょう?
ダジャレで、これでもか、これでもかとグイグイ押しが強い。最後は思わず、「うまい!」と口から飛び出す始末。ウケなかった読み聞かせ会はないといわれる、鉄板絵本。よく考えるとこれ、文章と絵のどちらが欠けても、意味を成しません。絵を見てお話を聞いて初めて、笑えるし感心するという、まさに絵本の神髄!子どもも大人も魅了するこの潔さ、病みつきになります。

『うえきばちです』(作:川端誠/BL出版)