● 1歳さんへ
お座りしたりつかまり立ちしたり、歩いたり。目線が大きく変わってキラキラと好奇心にあふれた赤ちゃんの目が印象的な1歳さん。絵本をおもちゃみたいにして存分に遊んで、刺激をいっぱい受けてほしい時期です。耳心地の良い文章や歌、体を使う遊び、傍らにいる安心できる大人とのコミュニケーションツールとしての役割ももつ、そんな絵本をご紹介します。
触ってよし、眺めて楽し、投げてもかじってもよしの花丸絵本
真四角のボードブックいっぱいに描かれた、人の顔。余計なものを省いて「表情」に特化しているからシンプル。1歳さんはよく人の顔を見ていますから、興味津々。まゆげや目をスライドして動かして、笑顔、困り顔など顔で遊べる絵本です。分厚いので壊れにくいから、赤ちゃんが壊さないかヒヤヒヤする心配もない。そのスムーズなスライドに、大人も一緒に楽しんでください。
赤ちゃんも一緒に楽しめる優れ本
ページをめくるごとに「かえるが」「ぴょーん」「こねこが」「ぴょーん」と、2見開きで様々な動物が飛び上がります。途中でちょっとボケが入ったりして。大人の方も実際に赤ちゃんを「ぴょーん」してあげると、ニコニコに。この絵本、実は「赤ちゃんが読み聞かせできる」絵本なんです。子どもが2歳の時、0歳の弟に向かって「かえるが~」「ぴょーん」と読み聞かせをしていたのを目撃した時の私の気持ち、想像してみてください(笑)。文章を暗記しなくても、読めるのがいいんです。
絵本で思いっきりストレス発散!
チキカーン、チキカーン、チキカーン、グー!わんちゃんがタンバリンを手に、ねこちゃん、おいもちゃん(?)、メルちゃん(!?)と次々と列に連なって進んでいく絵本。大人が読むと「え?なに?」と声があがるというユーモラスでちょっぴり不思議な世界を描いたら当代一の、樋勝朋巳さんの絵、構成は最高です。でもやっぱり特筆すべきは、文章。ヘヴィメタルでもサンバでもボサノバ調でも御経でも、どんなリズムでも、思い付きでぜひ。我を忘れて赤ちゃんと楽しんでください。
絵本のこちらとあちらでスキンシップ
「ぎゅう」は世界共通、赤ちゃんの大好きなことの一つ。お母さんの手で赤ちゃんの手を包んで「ぎゅう」。お布団も一緒に「ぎゅう」。いろんな「ぎゅう」が絵本に出てきます。絵本の中の赤ちゃんの幸せそうなこと!負けずに、目の前にいる赤ちゃんも幸せにしちゃいましょう、「ぎゅう!」。あちらもこちらも「ぎゅう」で、赤ちゃん嬉しい。でも実は、「ぎゅう」させてもらっている大人の方が、癒されているのかもしれません。
歌のきらいな赤ちゃんはいない!
小さい頃に聞いたわらべ歌を、何十年か経っていざ子育てする場になると、うろ覚え……なんてみなさまに、福音の一冊。節をつけて手や表情、体も使って赤ちゃんと楽しめる「わらべ歌」は、一つでも多く知っていると子育てがさらに充実すること間違いなしです。いろいろな地域のわらべ歌の紹介、絵があるので想像しやすいだけでなく、遊び方や楽譜もついているので、新しく覚えることも。これ1冊で赤ちゃんとずっと遊べそう。
● 2歳さんへ
運動能力が飛躍的に発達したり、だんだんコミュニケーションがとれて来たり、自立心がムクムク沸き上がり、チャレンジしたいという「ヤル気」いっぱいの時期。経験が増えるほど、絵本の楽しめる幅もぐんと広がります。ちょっぴり長めの物語も読みつつ、生活の中のできごとを描いた絵本も読みつつ、美味しそうな食べ物を描いた本も楽しみつつ……絵本盛りともいえる年齢時で、お勧めしたい絵本がたくさんあって、困るほどです。お子さまの好みもだんだんはっきりしてきたら、ジャンルで選ぶのもいいですね。
絵の具に興味を持つきっかけにも
絵の具のチューブが現れ「いろいろ・・・」次のページをめくると「ばあ!」と思い切り色が飛び出す、繰り返しが楽しい絵本。飛び出す音が様々な両唇音でバリエーション豊かに工夫されているので、できれば大人は暗記して読んであげるとさらに絵本の核心に触れられるかも(冗談です)。
いろいろな色と形と、そして混色の楽しさが味わえます。ぜひ実際の絵の具でも、匂いや艶、混じり合いなどを経験し、絵本とクロスして楽しめたら。
トラウマ絵本!? 大好きな絵本!? 大人になっても忘れない絵本!?
時計が9時をお知らせします。おや、こんな時間に起きているのは、だあれ?夜中はお化けの時間、起きている子は、お化けになって飛んでいけ!
絵本界の巨匠・せなけいこさんの切り絵のなんと洒落たデザイン。50年以上前に作られたと思えない斬新さ。思い出に残る絵本No.1といってもいいくらいの印象深さです。
一見「早く寝なさい」という教育的絵本と思いがちですが、いやいや、これは子どもの自立と反抗心を応援し、縛る大人への強烈なカウンターを表現しているのではないかと密かに思っています。
パンツをはくのは大きなステップ
「はじめに かたあし いれるでしょ♫」子ブタの女の子が、歌うようにパンツをはく様子を描いています。「パンツをはく」これは意外に難し楽しいものなんです。片足をあげなくちゃいけない。そして、両足を穴に入れなくては、上に引き上げられない。やっと引き上げたと思ったら、あらまあ、反対。そう、子どもがパンツをはくのは、本当に大仕事です。そんな大変さも、歌いながらはいてみると、あら楽しい。子ブタの女の子という設定もいいですね。一所懸命はくと顔が真っ赤になって、我が子がまるで、可愛らしい子ブタに見えてくるんです。
じわじわと迫りくる絵本です
でっかいもも、ちっちゃいもも、ころがるもも、いろんな「もも」が登場します。その豊富なアイディアに、「やられた!」感でいっぱいです。
文字が少ないから簡単と思うなかれ。実はとっても奥深い絵本なんです。面白さの規則性に、すぐにピン!と来る子も、じっくり眺めて何度も読んでから「ああ!」と気づく子も、もしや、初の「アハ体験」? 類推力が鍛えられます。
もももは桃、だと思いますが、ピンクで丸っこくて、逆さにするとハートみたいに見えるのも、じんわり温かみがあって、いいですね。
子どもたちのカタルシス
ちょっぴり目つきが悪くて、謎に自信たっぷりの、8匹のノラネコが主人公の人気シリーズ。このシリーズは、パターン化されているので、安心して先が読めること、絵の誠実さ、構成など魅力たっぷりです。
私はなんといっても、ノラネコたちが悪気なくついやってしまったことが大事件になってしまい、まず一回こっぴどく叱られるところがお気に入りです。子どもたちが、絵本の中で、自分の代わりに誰かが叱られているのがちょっと小気味よいのです。
初めての二段オチで、お子さまの読書も一歩先へ。
● 3歳さんへ
保育園や幼稚園などへ通う生活の大きな変化や、親や親族、親しい友だちからさらに交流関係が広がり複雑になるなど社会性と向き合い始めるころで、感情表現が豊かに。面白い言葉を使ったりする年代でもあります。絵本もさらに幅広く楽しめる年齢です。自分の好きな絵本を、子ども自身で選んでほしい時期でもあるので、ここではあえて必携のベストセラー・ロングセラーをお勧めしてみます。時代を超えて愛される本には、その理由がきちんとあります。オーソドックスと言われるものもぜひ、楽しんでみてください。
後世の作家に影響を与えた作家の一人
女の子が、野原に飛び出し、野生の動物たちと触れ合おうと手を伸ばせば逃げてゆく。仕方なく池の端でじっと腰かけていると、さっき逃げて行った動物たちが寄ってくる、そんなお話です。淡々としたお話のように一見感じるかもしれませんが、エッツが細部まで描き上げた確信犯的な絵は静けさと同時に躍動感を感じずにはいられません。
『もりのなか』でも知られるエッツは、実に色鮮やかな絵本を描き上げる名手。モノクロまたは限られた色使いで潔いほどにシンプルに描かれたその本を奥底まで覗きこめば、あまりにも豊かに心情を描いているものですから、目前には想像し得るありったけの色彩が広がっているかのように見える、そんな意味です。
こういう本をじっくりとゆっくりと、心行くまで眺め取る、そんな余裕のある子ども時代を過ごしてほしいという願いも込めて、お勧めします。
ノルウェーの民話。これを読めたら一人前!?
ノルウェーの昔話で、小さいやぎ、中くらいのやぎ、大きいやぎの3匹と、恐ろしいトロルとのやり取りが描かれています。マーシャ・ブラウンの絵は、ノルウェーの大自然の雄大さ、そして尖った感じをよく伝え、トロルの恐ろしさも半端ないという名手ぶり。また、タイトルといい、文中の印象的な言葉といい、とにかく翻訳も見事で、瀬田先生が訳したからこそ、こうして読み継がれることになったのではないかと見ています。読むほうも思い切り感情を込めて、わざと子どもを怖がらせたりして。
怖いものを経験し克服し成長するのが人間ですから、安心できる大人の温かな腕の中で、こういった怖いお話を楽しむのはお勧めです。(無理に読むのは厳禁です)
ノルウェーでは、この本を上手に読めたら一人前の親だ、と言われていたそうですよ。
50年前からSDGsを謳っている!?
バーバパパは、フランソワの庭の土の中から生まれた摩訶不思議なお化けです。大きすぎて動物園にやられたバーバパパは、姿を自由に変えられることに気づき、檻から抜け出します。居場所がないバーバパパが向かった先は……。
子どもたちは、自在に姿を変えられるバーバパパに想像力の翼をはためかせ、その人気で全世界のロングセラーとなりました。今読むと、まるで子どものために自分の形を変える自分に重ねることもできるし、また50年前に作られたお話ですが、多様性や環境問題などもシリーズ通して描かれている先見性にも驚きます。
Pay it Forward をこんなに愛らしく伝えられるなんてすごい
うさぎさんは可愛い小さな椅子を作り、野原の木の下に「どうぞのいす」と立て札を付けて置きました。そこを通りかかる動物たちと、「どうぞのいす」の言葉の勘違い、そして次の人への気遣い。みんながちょっと抜けてるようで、でもとびきり温かくて、最後はちょっと笑ってしまう、そんなお話です。「どうぞなら えんりょなく いただきましょう」や「からっぽにしてしまっては あとのひとにおきのどく」といったセリフの妙と、柿本幸造さんの描くひだまりのような愛らしいキャラクターは、時代を超えて愛されています。表紙のうさぎさんは、結局最後まで本編に登場しないという、おまけの感想を添えておきます。
時間を溶かしてしまう没頭タイプの絵本
トチくんが受け取った手紙「100かいだての家に住んでいます。遊びに来てください」から始まる、100かいだての家訪問アドベンチャー。
縦開きで、一見開きごとに10階。10階ごとに、違う生き物が住んでいます。トチくんと一緒に上階に向かっていきますが、その途中途中がまた楽しいこと。動物たちにぴったりの部屋、調度品などが事細かに工夫され細微に描かれているので、子どもたちもじーっと眺めて飽きません。本筋描きだけでなく、多数に張り巡らされた伏線の数々も鮮やか、果たして自分は全部作者の思惑を見つけたのか、今でも自信がありません。家族ご一緒に、楽しんでくださいね。