2020.08.14

コロナ禍でも安心して休暇を取得して出産したい! 働く妊婦がおさえておくべき「母性管理健康措置」

Column

赤ちゃんを授かるのは、とても幸せなことです。しかし、出産までの日々はハッピーなことばかりではありません。つわりや激しい睡魔に襲われたり、体重管理や食事内容に気を使ったり……。妊娠中の女性は、おなかの中に宿る小さな命を健やかに育むために、多くのエネルギーが必要です。
そんな妊娠中の働く女性が、産休まで働き続けられるようにサポートする制度として、「母性健康管理措置」があります。今年5月には、「母性健康管理措置」に新型コロナウイルス感染症に関する項目が追加されました。これにより、ワーキング妊婦の労働環境はどのように改善されるのでしょうか。
ウィズコロナ時代の「母性健康管理措置」の可能性を探ります。

そもそも、母性健康管理措置って何?

女性が仕事を続けながら、妊娠・出産を諦めなくてもよい職場づくりに向けて、男女雇用機会均等法の第12・13条に定められているのが、母性健康管理措置です。
妊娠期から産後1年以内の働く女性を対象にした制度で、妊婦健診や保健指導を受けるために必要な時間分の休暇や、時差通勤、時短勤務、勤務中の休憩時間の増加などを事業主に申し出る権利が定められています。
具体的には、つわりがひどい、立ちくらみがする、不正出血や動悸などがあり、妊娠中の疾患であるという診断や、安静を要するなどの指導を受けた場合、主治医に「母性健康管理指導項目連絡カード(母健連絡カード)」を記入してもらいます。
母健連絡カードを受けとった事業主は、申請した女性社員の要望に沿った改善策を取る義務があります。
なお、労働基準法で定められている妊娠中の社員の時間外労働や休日出勤、残業の制限は、主治医等からの指導なしで事業主に請求できる権利です。

「母性健康管理措置」で認められる主な内容
・妊娠23周までは4週間に1回、妊娠24〜35周までは2週間に1回、妊娠36周〜出産までは1週間に1回のペースで、勤務中に妊婦健診へ行くことができる。
・始業時間や就業時間を30〜60分程度ずらしたり、フレックスタイム制度を申請できたりする。
・1日30〜60分の勤務時間短縮や混雑の少ない路線への通勤経路の変更が申請可能。
・勤務中の休憩時間の延長や休憩回数の増加が申請可能。また、休憩中に長椅子などを利用して横になれるような会議室の利用を希望できる。
・6kg以上の重量物を持ったり運んだりする作業や、連続歩行を強制される作業の軽減など、妊娠中の体に負担のかかる業務を代わってもらったり、業務を妊娠中の体に負担がない内容へと変更してもらえたりする。

新型コロナウイルス感染症対策として新たに適用された「母性健康管理措置」とは?

今年は新型コロナウイルス感染症の流行で、社会全体に大きな健康不安が広がりました。
特に、妊娠中の女性にとって、通勤電車に乗ることや多くの人が集まるオフィスへ出社することは、新型コロナウイルスへの感染不安のほかにも、不安に思う気持ちがおなかの中の赤ちゃんに悪影響を及ぼすのでは……という心配など、たくさんのストレスがかかります。
こうした現状を受け、令和2年5月7日より「母性健康管理措置」に新たなルールが加わりました。ワーキング妊婦に対して、新型コロナウイルス感染症の感染リスクが高まる職場環境が認められる場合、主治医や助産師からの指導を受けたうえで「母権連絡カード」を事業主に提出すれば、三密を避けた作業への転換や出勤の制限、場合によっては休業が申請できます。
対応策は業務内容によりますが、リモートワークへの切り替えや、ラッシュを避けた通勤時間への調整が通りやすくなるでしょう。
この新措置の期間は暫定的に令和3年1月31日までとされていますが、世の中の状況により前後する可能性があります。

事業主への助成金で申請がしやすくなった?

今回、新たに加わった措置で見逃せないのが、休業が必要とされた妊娠中の女性社員に対し、有給休暇を設けた事業主には、助成金「新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援助成金」が支払われることです。
ほかにも、雇用調整助成金の対象事業主が妊娠中の女性社員に対して休業手当を支払った際には、特例の対象条件を満たせば、雇用助成金の申請ができます。
つまり、事業主にとっても、積極的に活用したくなる制度なのです。
結果的に、妊娠中の女性社員は権利を主張しやすくなるでしょう。
新型コロナウイルスへの感染リスクを下げる目的でのリモートワークが認められれば、妊娠期の体への負荷を減らしつつも、自宅で仕事を続けることができます。

母性健康管理措置がありながらも、実態は働く女性が守られきれない現状

産前産後休業や妊娠中の残業免除などは労働基準法で定められ、母性の健康管理に関しては男女雇用均等法に盛り込まれたことにより、働く女性が子育てをしながら仕事を続けやすくなっています。
近年は、マタニティハラスメント(マタハラ)という言葉が広く認知されるようになり、ワーキング妊婦への理解とサポートが深まりつつあります。
しかし現状は、育休取得を希望しつつも、出産を機に退職している女性は少なくありません。日本労働組合総連合会の「働く女性の妊娠に関する調査」(2015年1月実施、有効回答数1,000人)によると、妊娠後に仕事をやめた人は全体の6割という結果に!
妊娠後に仕事を辞めた理由として、「家事や育児に専念するために自発的に」が最も多い意見ですが、「仕事を続けたかったが、子育てと仕事の両立が大変だから」「仕事を続けたかったが、職場で安心して出産まで過ごせないと考えたから」という意見も少なからず見られます。
なかには、母性健康管理措置を知らなかったことで、ワーキング妊婦の道が閉ざされてしまった方もいるかもしれません。
新型コロナウイルス感染症の影響により母性健康管理措置に新たな項目が追加された今、この制度について企業側と妊娠中の女性の双方に認知が深まり、さらに制度を活用することで、働き続けられるワーキング妊婦が増えることが期待されます。
それと同時に、女性側には、妊娠中や子育てにおいて、会社やパートナーからのサポートを積極的に受ける姿勢も求められます。
テレワークが長引いたり、自宅で過ごす時間が増えたりする今こそ、今後の働き方や協力体制について、パートナーとしっかり話してみてはいかがでしょうか。

出典:日本労働組合総合連合会調べ「働く女性の妊娠に関する調査」(2015年1月26日〜2月2日 有効回答数1,000人)


新型コロナウイルスの感染拡大により、図らずも、リモートワークの導入をはじめとしたワーキングスタイルが多様化する時代に突入しました。
これにより、コロナ以前よりも働きやすくなったという妊婦さんもいたことでしょう。
今後はすべての職種の女性が働き続けられる労働環境を構築するために、「母性健康管理措置」の適切な措置を講じる母健連絡カードの活用が望まれます。