2023.05.01

「母の日に読みたい絵本」

Column

 5冊だけの本屋という女性向け選書サービスを行っておりますミホコです。

 「寝る前に読んでもらう絵本のストーリーの終わりがあたたかいものだったら、子どもたちは一日をとっても幸福に感じるでしょう。そして心地よい眠りにつけるはずです」

 これはミッフィーの生みの親でもあるディック・ブルーナさんの言葉です。毎日、大人も子どももいろいろあります。どんな一日でも、夜眠る前に心温まる絵本をゆっくりゆっくりと読んでいると、一日の緊張の糸がほどけて自然とリラックスしてきます。彼の言葉にあるように、それが幸福や心地よい眠りに繋がるのだと思います。この連載では、眠りにつく前にぴったりな心温まる絵本とそれにつながる5冊をご紹介します。

初めて花を贈る人は、お母さん。

 大好きで、大好きで、本当に大好きでたまらない人のために、初めて自分で花を選んで誰かに贈ったのは母の日が初めてだったと思います。照れ隠しでぶっきらぼうに赤いカーネーションを母に渡した記憶があります。幼い頃の私は、素直に感謝の気持ちを伝えることができませんでした。いつも当たり前に自分のそばにいる母に「ありがとう」を伝える大切さを知ったのはこの時だったかもしれません。
 子どものお母さんへの大好きという気持ち、そして感謝を伝えること。母の日には、親子で一緒にお母さんをテーマにした絵本を読んでみませんか。


 『おはなをどうぞ』(三浦太郎/のら書店)は、メルシーちゃんとお母さんの心優しい親子の物語。おかあさんにあげるおはなをつんで、おうちへといそぐメルシーちゃん。すれちがう動物たちにおはなをおすそわけしていたら、おかあさんに渡すお花がなくなってしまって落ち込みます。そんなメルシーちゃんに、おかあさんがかける言葉に心打たれます。大切なおはなをおすそわけできるメルシーちゃんの優しさが、おかあさんのやさしさからきているのだと感じます。作者の三浦太郎氏と娘さんのエピソードも紹介されており、こちらも微笑ましいエピソードです。

『おはなをどうぞ』三浦太郎/のら書店


 『ママだいすき』(まど・みちお 文 ましませつこ 絵/こぐま社)は、ページいっぱいに描かれた色鮮やかな絵と短いことばで、何度も何度も読み返したくなる親子愛溢れるやさしい世界観が魅力。おっぱいを飲む子ブタたちと満面の笑みで見守るママ。ママにまとわりつく子ネコたちと愛おしそうになめるママ。きれいに羽ばたくチョウのママとママへの憧れのまなざしを送る子ども。やさしいママだけではなく、かっこよかったり、きれいだったり、全力で遊んでくれたり、いろんなママたちの姿にも共感します。

『ママだいすき』まど・みちお 文 ましませつこ 絵/こぐま社


 そして、母の日と言えば赤いカーネーション。でも、一体どうしてだろうと思ったことはありませんか。『こねこのははのひ』(やすいすえこ 作 しのざきみつお 絵/教育画劇)は、ねこの母子の物語を通して、母の日に赤いカーネーションをあげる由来を知ることができます。赤いカーネーションの意味を知ると、改めて母の日にはやっぱり赤いカーネーションを贈ろうと思います。

『こねこのははのひ』やすいすえこ 作 しのざきみつお 絵/教育画劇

絵本とつながるおとなのための2冊

 母の日には、母へ「ありがとう」を贈り、そして子どもから「ありがとう」を受け取ります。母親であること、そして娘であること。親に育ててもらった記憶、子どもを育てている今の自分。そういう思い出と感情が混じり合う母の日に読みたいエッセイをご紹介します。


 平野レミさんの妊娠・出産時のエッセイ『ド・レミの子守歌』(平野レミ/中公文庫)は、初めての妊娠・出産・子育てと仕事に悪戦苦闘する姿が綴られています。世間一般の常識に囚われず家族を尊重しユーモアを持って共に育児する夫・和田誠さんと可愛らしい唱ちゃんこと長男・和田唱さんの3歳ごろまでのエピソードに共感しかありません。
 最後には、三十七歳になった和田唱さんの「全てのお母さんに」が掲載されています。「これ以上ない理想的で人間的な母親が僕を育てていたのだ。そしてその一〇〇倍『ありがとう』と言いたい。生んでくれて。この三七年間、そしてこの先もずっと心の支えでいてくれて」とあります。育児はたのしい、うれしい、でもそれだけじゃない。これでよかったのかと正解のない中で戸惑った日々、それらがすべて報われる一文に涙が止まりません。全ての母親たちへの賛辞です。

『ド・レミの子守歌』平野レミ/中公文庫


 結婚して家族の料理を用意するようになって、母が作っていた料理をよく思い出します。いわゆる母の味。『母の味、だいたい伝授』(阿川佐和子/新潮社)は、結婚し、両親を看取った著者が、両親との料理の思い出や亡き母の味をうろ覚えで再現しようとする様子をコミカルに描いた食エッセイ。子どもの頃によく母が作ってくれた料理を思い出しながら作る時間は、母を思う時間なのだと痛感します。荒井良二氏の装画がまるで絵本のようなキュートなところも魅力。作中には、平野レミさんも登場するので、あわせてお楽しみください。

『母の味、だいたい伝授』阿川佐和子/新潮社


 それでは、今夜もすてきな絵本時間をお過ごしください。

5冊だけの本屋 ミホコ

2015年に女性のための選書サービス「5冊だけの本屋」をスタート。お客様のSNSを拝見して、今のお客様にぴったりな5冊を選書している。本好きな女性にも、普段本を読まない女性にも、読書を楽しんでもらうために活動中。

「5冊だけの本屋」ミホコの今日もハッピーエンド。