主婦のブランク期間はマイナスなの? 起業を決意
― もともと起業志望だったのですか?
竹内さん:〈コロリド〉のアイデアを思いついたのは渡米してからですが、起業することは渡米前から決めていました。子どもの手が離れはじめたということと、夫の仕事がなかなか軌道に乗らないこともあって、「働きたい」っていう思いがすごく強くなっていて。でも転職サイトの募集条件は「大卒以上、35 歳以下」ばかりで、短大卒40歳のわたしは応募すらできなかった。
― 働く意欲はあるのに……悔しいですね。
竹内さん:10年間、専業主婦として4人の子どもを育ててキャリアブランクがあるから、履歴書に何も書けなかったんです。自分には戦えるものが何もない、ゼロなんだと思い知らされたようで、それがすごくショックで……。悪いけど東大の新卒よりはわたしの方が営業はできると思ったし、やる気もあるし!って(笑)。子育てを通してさまざまな気づきを得たし、学びがあった。にもかかわらず、履歴書に書けることがない。それなら起業するしかないな、と。
ブランク中に培ったスキルや経験を可視化したい
― それで起業を決意したのはすごいです。
竹内さん:働くうえで、人間性とかコミュニケーション能力とか、可視化できないけれどすごく重要なことっていっぱいあるじゃないですか。でも、ほとんどのことが可視化できてないっていうのが、ちょっともったいないなと思ったんですよね。育児や介護などで離職し、再就職を希望する女性たちは、キャリアにブランクがあるからといって、何もしていなかったのかというと決してそうではないと思う。たとえば、子どもや社会を通じた社会マネジメントや、家事や育児によって身についたライフマネジメント力とか。離職期間中の経験や努力に着目しないことは、非常に残念に思います。
― 採用側は、離職前までのキャリアに目が向きがちということですね。
竹内さん:世の中には膨大な種類の「価値のものさし」が存在していて、当然、人によって持ち合わせている「ものさし」は違う。その人の人生観に着目して、「ものさし」を可視化できる仕組みができたらいいなと考えていて。そのためには起業して、まず自分が影響力をもたないといけないなと。ただの主婦が1からやったところで説得力がないから。
〈コロリド〉を成長させながら、キャリアを再構築する方法を模索
― ちょうどその頃にご家族で渡米。シェアハウスを運営しながら、カラフルでアレルギーフリーのクッキーの開発を進めたんですよね(前編参照 )。その後、コロナ禍になり帰国。ついに〈コロリド〉を日本でローンチされました。活動のベースとして渋谷を選んだ理は?
竹内さん:わたしがソフトウェアの営業をしていた独身時代は、アメリカのシリコンバレーに対し、渋谷は「ビットバレー」と言われていて、IT業界の活動の中心地でした。わたし自身の活動拠点も渋谷でしたし、結婚後も渡米前まで祐天寺に住んでいたので、公私共に友人知人も多く、活動もしやすい渋谷は自然な選択でした。7年ぶりに帰国してみたら、めちゃくちゃ変わっていてびっくりしましたけど(笑)。
― 渋谷区は起業支援だけでなく、その先も見据えたサポートをおこなっていますしね。竹内さんのように育児中でもキャリアを築くには、どうしたらいいでしょうか?思いを実現するためのヒントを聞かせてください。
竹内さん:まず、どの選択をしたとしても正解や答えはない、ということをきちんと腹落ちさせたうえで、焦る必要はまったくないですが、常に広い視野をもって世界の情報を見ておくことはしておいた方がいいと思います。子育てに限らず、どうしてもコミュニティに属すると価値観が固定化されたり、視野が狭くなりがちなので、「それはそれ、自分は自分」とうまく調和しながらも、別次元の視野ももっておくことは大切だと思います。アンテナを立てて行動していくと、自然とご縁やタイミングで進むことは多いなと感じています。
― 今後、ブランドとしてまたは竹内さん個人としてめざすところを教えてください。
竹内さん:〈コロリド〉は食品メーカーをめざしておらず、世代、性別、国籍を超えて誰もが楽しめるコミュニケーションツールをめざしています。クッキー作りを通じて、会話が増えたり、個性が見えたり。普段とは違う一面が見れるだけでなく、食べることで人間の記憶にも残りやすくなります。今後は、教育やIPライセンス、プロモーションなど、いろいろな企業とのコラボレーションや国内外での展開を考えています。わたし個人としては、キャリアのブランクを抱えた女性が、キャリアを再構築できるような仕組みを作っていきたい。10年間、子育てをしたことで自分自身が成長したと感じますし、子育ての経験は仕事にも活きる多くのスキルを磨くことにつながっていると思います。もちろん、〈コロリド〉を成長させることにも心血をそそぎますよ。