2019.12.20

産まれたてのいのち写す「ニューボーンフォト」。安全に配慮、産後ママのケアも

Column

生後2週間の貴重な新生児期間を写真に収める「ニューボーンフォト」の関心が高まっています。海外で始まり、日本でもSNS上での誕生報告が増えていますが、中には“インスタ映え”を狙うあまり、首や手への負担を無視した写真も少なくありません。赤ちゃんの安全と産後ママのケアに取り組む国内のニューボーンフォトグラファーの第一人者・藤田努さんと麻希さんにインタビューしました。

日本独自のニューボーンフォト・スタイルを確立

藤田努さんがニューボーンフォトを撮り始めたのは7年前。それまでは結婚式撮影をメインにフォトグラファーとして活動し、2005年まではアメリカで報道カメラマンとして活動していました。きっかけは、国際結婚のカップルに「こっち(欧米)では出産して退院するとその足でスタジオに行って赤ちゃんの写真を撮る。私たちの赤ちゃんも日本で撮ってほしい」と言われたことでした。
ちょうどそれは日本で、「産後うつ」の問題がクローズアップされ、「産後うつ」という言葉自体の認知度がかなり上がってきた時期。元看護師である妻の麻希さんも、産後の心身のケアについて勉強をはじめた頃でもありました。

藤田麻希(以下、麻希):産院からスタジオに直行して新生児を撮るって、すごいことだなぁと思ったのですが、欧米のニューボーンフォトのスタイルをそのまま日本に適用するのはムリがあると思いました。日本では昔から、出産後1カ月は安静にして、身体をしっかり休める必要があると言われてきましたから。

それでも、ママのおなかの中にいた姿に近い状態の赤ちゃんを写すことは、とても貴重で素敵なこと。反面、危険もともなうことから、努さんと麻希さんはアメリカやオーストラリアで新生児の身体の構造や体調に配慮した撮影技術を習得。日本で本格的にニューボーンフォト撮影を始めるにあたって、欧米ではほぼ例のない「出張」と、写真を通した「産後ケア」というスタイルを確立させました。

麻希:産後の身体って、ママが自分で思っている以上にダメージが大きいんです。骨盤の緩みや会陰切開の傷、ホルモンの急降下、出産だけでもものすごく体力を使うのに、回復の休憩どころか、睡眠もままならずに夜中でも3時間ごとの授乳。そんな状態で育児が始まるママたち。元気なわけないんです。そして、そんなボロボロの身体でスタジオに来てもらうのはやはり難しいのではないかと思ったんです。そもそもお医者様にも「1カ月は自宅で養生を」、と言われているわけですし。

藤田努(以下、努):出産前は「我が子のニューボーンフォトは自分が撮る!」と張り切っていたフォトグラファーでさえも、産後、身体がついていかないので泣く泣く諦めた、と言う話は多いんです。

撮影しながらお産を振り返り、自信を取り戻してもらう

出張でわかるのは、ママたちの「つらさ」。撮影前にママの話をいろいろ聞かせていただいているという麻希さん。その内容は「体調はどうですか?」「眠れていますか?」など、ママの体調を伺うことや出産の状況など。産後ママはほぼみなさん元気に出迎えてくれますが、不眠不休の待ったなしの育児の真っ最中。寄り添い、話を聞いていると、「実は…」と育児についての不安やつらさを吐露してくれるといいます。

麻希:産後2週間という時期は、ママのホルモンの崩れは著しく、メンタル的にも不安定になりがちな時期。想像していた産後のイメージと現実のギャップに追いつくことができず、ママの自己肯定感はどんどんなくなっていくと言われています。そんな時には、とにかく自分自身をそのまま受け入れてもらえる空間を作ることを徹底すること。それだけでもママの気持ちは軽くなるんです。

撮影が進み、ママと赤ちゃんの一緒のショットを撮るときは、妊娠から出産までのことをひとつひとつ思い出してもらっています。愛する人と出会い、赤ちゃんを授かり、10ヶ月もの間おなかの中で育て、命がけで産んだわが子。そしてめまぐるしい変化を受け入れてきた自分のカラダ。

麻希:お客様の中には、長い妊活の末にようやく授かった方も多くいらっしゃいます。自分だけの妊娠、出産のストーリーを思い出してみると、自然と涙が出てきたり、気持ちが軽くなった、スッキリしたとおっしゃられることが多いです。パパには上半身裸になってもらって、赤ちゃんを抱いてもらったりもよくします。脱ぐことに最初は抵抗されるんですが(笑)、撮影後は「体温をじかに感じられて、すごく幸せな気持ちになりました」と、ニコニコしながら言うパパがほとんどです。

アメリカではママ同様、パパも上半身裸になってカンガルーケアをおこなうのだとか。産まれたての赤ちゃんを胸に抱くことで、赤ちゃんへの愛情がより深まり、父親意識の形成にも役だっているそうです。



デリケートな時期だからこそ、十分な知識と配慮が必要に

赤ちゃんの命を預かることにもなるニューボーンフォトの撮影。スムーズにおこなううえで重要なのが、「寝かしつけ」と「ポージング」の技術。

麻希:撮影するお宅に伺うと、まず赤ちゃんを寝かしつけるところからスタート。おっぱいやミルクをたっぷり飲んでもらって、深く寝かしつけてからポーズをつけていきます。頬づえをつくポーズが人気ですが、実際は私が支えながら撮影、画像処理をしているんです。そうした事情を知らない素人さんが安易にまねをすると事故も起きかねません。

ポージングにはいくつか種類があり、それぞれが関節だけでなく、呼吸気道の確保、原始反射の仕組みまで考えられているとか。さらには室温、照明の強弱まで細心の注意を払って調整。十分な知識がある人以外は撮影しないでほしい、と麻希さんは警鐘を鳴らします。もちろん、赤ちゃんと一緒に撮る小物への対応も不可欠。

努:何度かクリスマスライトなどの電球で撮影したいとおっしゃられたお客様もいらっしゃったのですが、アメリカで感電死した事故の話を聞いたこともあり、お断りしたこともありました。バケツなど、倒れやすいものも重しを入れて支える配慮を必ずします。サッカーボールやテニスボールぐらいなら撮影と編集で大丈夫です、撮影するのはとても大変ですが(笑)。

撮影をプロデュースする麻希さんは、パパママとのコミュニケーションやお宅の雰囲気から小物を選んでセッティング。「自分たちでは考えつかないようなシーンを提案・撮影してくれ、我が家の世界観を表現できた」と、依頼者から喜ばれているそうです。



いかがでしたか?依頼者には気持ちに余裕がある人がほとんどですが、なかには育児に行き詰まりを感じている人も。そんな鬱屈とした気持ちが溜まってきたときは、ニューボーンフォトの写真を見返してみて、と麻希さん。写真に込めた記憶を思い出すことで「成長したなぁ」「わたし、がんばってるよね」と思えて、こころがふわっと軽くなるのを実感できるはずです。



藤田努(ふじた・つとむ) 写真事務所〈bozphoto & styles〉ウェディングフォトグラファー兼メインフォトグラファー。19歳の時に単身アメリカへ留学。2005年に日本に帰国後はウェディングフォトグラファーとして活動開始。日本にニューボーンフォトという単語が浸透しないころからニューボーンフォトの撮影を行い全国にその名を広め、国内のニューボーンフォトの第一人者となる。
藤田麻希(ふじた・まき) 〈bozphoto & styles〉プロデューサー兼トータル女性ホルモンバランスプランナー/ペリネセラピスト。元看護師。産後のホルモンバランスの不安定なママへのメンタルケアのひとつとして、写真を通した「産後ケア」を展開。2014年に女性ホルモンバランスを整えるためのサロン〈Salone di Rosa.〉をオープン。
bozphoto & styles


Info.
藤田さんが賛同している活動をご紹介。

母と子を守る「いのちのドア」
「小さないのちのドア」は、思いがけない妊娠や産後うつで育児が困難と悩む女性に向けた24時間対応の相談窓口。助産師らが電話やメール、面談に無料で応じ、女性と赤ちゃんにとって最良の選択を一緒に考えます。

一般社団法人 小さないのちのドア
兵庫県神戸市北区ひよどり台2-30-6
TEL・FAX 078-743-2405