2021.07.02

これって教育虐待!? そう感じた日からできること

Column

「教育虐待」という言葉をご存じでしょうか。
一昨年頃から世の中に浸透し始めたこの言葉。教育熱心なあまりに、子どもに過剰な習い事をさせたり、子どもに暴言を吐いてしまったりすることを言います。
親御さん本人はよかれと思っていても、お子さんには大きな精神的ストレスとなり、心に深い傷を刻み、学力が低下する場合も少なくありません。
「もしかして私、教育虐待しているかも?」。そう思ったお母さん、今からでも遅くありません。
大切なお子さんのためにできることをひとつひとつ、考えていきましょう。

私の「教育虐待」体験

ここでは、「私が話すことで、ひとりでも多くのママやパパに気づいてもらえたらうれしい」と、自らの教育虐待体験をお話してくれたママのエピソードをご紹介します。

算数につまずいた息子を罵倒してしまった
「私自身が子どもの頃、算数で苦労したこともあり、子どもには算数が好きな子に育ってほしいという思いがありました。
ところが小2の途中くらいから算数の理解度が低いことに気づき、自宅学習をするように。最初はしっかり向き合って教えていたのですが、しばらくすると簡単な問題も理解できない息子に腹が立つようになり、“なんでこんな問題も解けないんだよっ!”と、強い口調で叱るようになりました。
それがどんどんエスカレートし、しまいには息子の頬をひっぱたいたり、“バカじゃないの”“アホすぎて頭くるわ”とひどい言葉を浴びせるようになり、息子は泣きながら机に向かうようになりました。
これはマズいと思ったのは、答えを間違えたとき、息子が咄嗟に頭を手でガードした瞬間でした。息子が反射的に自分を守ろうとしている姿を見て、ああ、私はとんでもないことをしてしまったと感じました。
そのときは泣きながら息子を抱きしめ、“ごめんね、お母さんが悪かったよね”と伝えました。それは心から出てきた言葉でしたが、一方で、これでは、DV男と変わらないと思う自分がいました。
その後もカッとなると強い口調になってしまう自分を抑えきれず、もう、自宅学習はやめにして、塾に通わせることに。私のせいでトラウマになってしまったのでしょう。しばらくは算数嫌いは直らず、机に向かうのも嫌がり、集中力も5分と持たないことが続きました。算数の勉強をすると思うと、無意識のうちにシャットアウトしてしまうようでした。
そこから3年経ち、あれだけ嫌っていた算数を嫌がらなくなりました。塾の先生が、すごく褒めてくれるようです。誰だって褒められたらうれしいし、褒められたら伸びる。そのことを感じています。今でも当時のことを思い出すと、あの頃に戻って、やり直したい気持ちと、教育虐待をしてしまった息子に対する申し訳なさでいっぱいになります」
(R.Tさん/小5の男の子のママ)

私たちが目撃した教育虐待

続いて、クラスの8割は中学受験をするという地域にお住まいのママ3人に、教育虐待の目撃談についてお聞きしました。

成績は伸び悩み、ストレスによるキレやすさや肥満で、気の毒
「息子のお友だちのYくん。ご両親ともに高学歴のご家庭で、小学校入学前から英語や幼児教室、公文と、複数の習い事をしていました。
中学受験に向けての塾は小2の春休みから。ところが本人は友だちと遊ぶのが大好き。塾で放課後遊べないうえに、毎日夜中12時頃までの勉強で、どんどんストレスになっていったようです。体重も増え、肥満体に。さらにキレやすくなり、友だちとのトラブルが増えていきました。なかなか成績が伸びず、塾は3回ほど変わっています。
それでも受験に向けて、ご両親からの勉強の強要は続いているようで、気の毒です。中学受験は向き不向きがあると思います。余計なお世話かもしれませんが、あそこまでストレスが表に出てしまっているのだから、受験をやめさせてあげればいいのにと思ってしまいます」
(I.Sさん/小6の男の子と中3の女の子のママ)

ママの期待に一生懸命応えるお子さんがいじらしい
「近所に住む娘のお友だちのAちゃんは、低学年の頃からピアノ、習字、ダンス、公文、英語、と日替わりで習い事に励む日々。毎日お母さんも送迎を頑張っていたので、“大変だね”と言うと、“娘が全部やるっていうの”という返答。
はたから見ると、お母さんの期待に応えようと、娘さんが必死でこなしているようにしか見えませんでした。
そのうちにAちゃんがよそのお子さんをいじめるようになりました。それも、できないことをバカにするのです。これは推測ですけれど、習い事で友だちと遊ぶ暇もないことや、成果を出すことを求められすぎていることのストレスなのでは……と思ってしまいました」
(Y.Eさん/小5の女の子のママ)

”遊べなくてかわいそう”という言葉に過剰に反応するママ友
「来年の受験を控え、放課後も土日も毎日塾通いの息子のお友だちRくん。前に、塾の宿題が終わらないからと学校を休んだ日もあったほど。子どもたちもわかっていて、Rくんを放課後の遊びに誘うこともないのですが、ある日、Uくんというお友だちが下校中に”Rは友だちと遊べなくてかわいそう”と言ってしまったんです。
すると、Rくんママが、すぐさまUくんママをはずしたグループLINEを作り、Uくんママを大バッシング!
「受験できるお金もないくせに」「ろくな教育も受けさせられない家庭が口出すな」など、目を覆いたくなるような内容でした。早く受験が無事に終わり、Rくんに平穏な日々が訪れることを望むばかりです」
(K.Kさん/小6の男の子と小3の女の子のママ)

その言葉や思考、教育虐待の可能性大!

ママやパパ本人は励ますつもりで使っていても、子どもは嫌だなとかつらいなと思っている場合があります。それが積み重なると、心の傷に。
ここでは、教育虐待になり得るNGワードや、NGな行動をご紹介します。

<NGワード>
「なんでわからないの?」
「100点じゃないの?」
「私が子どもの頃はこんなの簡単に解けたよ」
「私の子とは思えない」
「成績が上がらないのは、努力が足りないからじゃない?」

<NGな行動>
・子どもに休憩時間を与えずに勉強させる
・勉強のとき、机を叩いたり、ノートを投げたり物に当たる
・答えが出ないと、大きな声を出す
・子どもに選択肢を与えない

もしも教育虐待の不安を感じたら……

「うちって、教育虐待かも」と少しでも感じたら、すべての勉強や習い事の予定を子どもに決めさせるということを行ってみましょう。
このとき大切なのが、勉強や習い事をした際、必ず休憩時間もセットで設けること。
そして、詰め込みすぎていないか、無理のないスケジュールかどうかということを、ママやパパがチェックしてあげられるようにするといいでしょう。
また、教育虐待をするママやパパの多くが、ご自身も努力をして成果を上げてきた方々。前出のR.Tさんのように、自分の子ども時代のような苦労をさせたくないと思う方も少なくありません。
しかし、お子さんとご自身はまったく別の人間であり、比較したり、投影したり、夢を託したりすること自体がナンセンスだということに気づきましょう。
お子さんをひとりの人間として尊重する姿勢を持つことが大切です。



本来、教育とは、子どもの能力を信じて、それを最大限伸ばすために行うもの。しかし、教育虐待は、子どもを深く傷つけ、本来持つ素晴らしい力そのものを潰してしまいます。
子どもの、まだ小さく、しかしながら大きな力を秘めた「発展の芽」を大切に育てていけるような、そんな関わり方を目指していきましょう!