はじめての歯みがきは、慣れることから始めよう
赤ちゃんの歯みがきをスタートする時期の目安は、下の前歯が生えてくる生後6カ月頃です。とは言え、まだ歯が1〜2本しか生えていない時期は、唾液が歯の汚れを流してくれるので、虫歯にはなりにくい環境です。
「しっかりとみがかなきゃ!」と気負わなくても大丈夫。この頃は、赤ちゃんが歯みがきに慣れることが何よりも大切です。まずは赤ちゃんがお口の周りに触れられることに慣れることから始めましょう。
〈お口の周りに触れる手順〉
1. ママやパパの膝の上に赤ちゃんを寝かせる。
2. やさしく話しかけながら清潔な手で赤ちゃんの顔に触れる。
3. きれいに洗った指で赤ちゃんの唇にやさしく触れたり、お口の中をそっとなぞったりする。
赤ちゃんが嫌がらず、慣れてきたら、お口の中に触れていきます。赤ちゃんの歯ぐきをやさしくなでるようにマッサージしていきましょう。
赤ちゃん用歯ブラシで歯みがきスタート!
お口の周りに触れられることに慣れてきたら、いよいよ歯ブラシに切り替えての歯みがきのスタートです。早めに歯ブラシの感触に慣れさせることで、習慣づけにつながります。
大人がみがいてあげるこの段階では、歯ブラシは大人がにぎりやすく細くて長いハンドルで、小さいヘッドに歯ぐきにやさしい毛のものを選びましょう。赤ちゃんの歯をみがくときには、仕上げ用の歯ブラシがおすすめです。ブラッシングは、みがき残しがないように「順番みがき」がおすすめです。
順番みがきは
1. 上の歯の外側一周
2. 上の歯の内側一周
3. 上の歯の奥歯の噛む面
4. 同様に下の歯
また、とくに虫歯になりやすい箇所を注意するとよいでしょう。乳歯で虫歯になりやすい箇所は、
1. 歯と歯の間
2. 奥歯のみぞ
です。
みがき忘れのないように、順番を決めて丁寧にブラッシングしていきましょう。
〈ブラッシングのコツ〉
1. 歯ブラシは歯の面に垂直に当てます。また、歯と歯茎の境目は歯面に当てて広がった毛先で汚れをかき出します。
2. 歯1、2本につき、歯ブラシを横に小刻みに動かしながらシャカシャカと軽い力で小さく動かします。裏側も忘れずに!
3. 上唇小帯に歯ブラシをあてないよう気をつけましょう。上唇小帯とは、上唇と歯茎の間にあるスジです。ここに歯ブラシがあたってしまうと痛みから歯みがきが嫌いになってしまうお子さんも。必ず上唇を少し持ち上げ、指で上唇小帯をカバーしながら、上唇小帯に歯ブラシが当たらないようにみがいてあげましょう。
小児歯科専門医に聞いた、こんなときはどうしたらいい?
続いて、坂部先生に子どもの歯の疑問についてお聞きしました。
Q. 生まれたときから歯が生えています
A. 生まれたときからすでに生えていたり、生後1、2カ月で生えてきたりする歯のことを「先天歯」といいます。先天歯があると、授乳の際に母親の乳首にあたって痛んだり、赤ちゃんの舌の裏が傷ついて潰瘍ができてしまったりすることも。また、先天歯は通常の乳歯に比べると構造が不完全でもろいことが多く、自然に抜けて誤嚥する危険性もあります。このため、先天歯を見つけたら、早めに小児科・小児歯科を受診しましょう。
Q. 歯がなかなか生えてこない
A. 乳歯が生える時期には個人差があり、1歳を過ぎてからやっと生えてくる場合もあります。歯が生えてくる前ぶれは、歯ぐきが大きくふくらむこと。他の部分と比べて歯ぐきが膨らんでいれば、心配ありません。どうしても気になる場合は、小児歯科に相談しましょう。
Q.健診で「小帯異常」の指摘がありました
A. 「小帯異常(しょうたいいじょう)」とは、上唇の裏側にある「上唇小帯(じょうしんしょうたい)」というスジや、舌の裏側にある「舌小帯(ぜつしょうたい)」というスジの長さになんらかの異常が見られることです。例えば舌小帯が短すぎて授乳や発音に影響がある場合は手術をすることもあります。また、上唇小帯が通常より長いと、上の前歯にすき間ができたり、発音や歯並びに悪影響を及ぼすこともあります。経過観察で問題ない場合が多いですが、健診で指摘されたら、小児歯科医に相談してみましょう。
Q. 乳歯が虫歯に。いずれ抜けるから放置しておいても大丈夫でしょうか
A.確かに乳歯はそのうち抜けますが、虫歯の原因菌がある状態で放置しておくと、口内環境が悪化してしまいます。次に生えてくる永久歯は乳歯の下で成長しているので、これから生えてくる永久歯の成長に影響を与える可能性も。また、歯並びに影響することもありますので、必ず治療してください。
Q. 1歳の娘が自分で歯をみがきたがります
A. 自我が芽生え、なんでも自分でやりたくなるのは成長の証です。その気持ちを尊重し、ぜひお子さん用の歯ブラシを一本用意してあげるといいでしょう。しかし、お子さんひとりでしっかりみがくのは難しいので、ひとりでみがけるようになるまでは、仕上げみがきをしてください。また、お子さん用の歯みがきは、小さな手にフィットしやすいグリップで、のど突き防止のプレートの付いた安全性の高いものを選ぶようにしましょう。そして、お子さんが歯ブラシをくわえたまま歩くなどしないよう、必ず注意して見てあげてくださいね。
Q. 乳歯が足りないと言われました
A. 子どもの乳歯は生え揃うと20本になります。しかし、最初から歯が作られなかったり、2本の歯がくっついて生えてきて20本より少なくなることがあります。この現象を「先天欠如」などといいます。50人~100人に1人ほどの割合で起こり、3歳以降になっても20本が生え揃わなければ、先天欠如の可能性があります。一方で、先天欠如だからといって、永久歯も必ず足りなくなるわけではないので、慌てる必要はありません。永久歯に生え変わる6歳頃に小児歯科で永久歯に影響があるかどうかを調べてもらいましょう。歯並びやかみ合わせは今後どうなるのかによっては、矯正治療などを検討します。
食器の共有を避けるだけでは虫歯は予防できない?
1歳半くらいまでは、赤ちゃんのお口の中の細菌分布が未成熟なため、外からの虫歯菌(ミュータンス菌)の影響を受けやすい「感染の窓」といわれる時期もあり、注意が必要です。
虫歯の原因となる菌は、菌を持っている大人の唾液などから赤ちゃんの口の中に入って住みつきます。このため、食器の共有や赤ちゃんへのチューを避けるママやパパは少なくありませんが、それだけでは虫歯の予防はできません。
ママやパパにひどい虫歯がある場合、唾液が飛び散ることで、虫歯菌は赤ちゃんの口に入ってしまいます。また、歯が生えてきた赤ちゃんの口の中をきれいにしていないと、虫歯が住みつきやすくなってしまいます。
このため、赤ちゃんの虫歯予防には、虫歯菌を口に入れないように注意することよりも、歯みがきや正しい食生活で予防するほうが効率がよいと言えます。何よりも、虫歯になりやすい奥歯が生えてきたら、歯みがきを怠らないことが重要です。
そのためにも、前歯が生えてきた頃から赤ちゃんの歯みがき習慣をつけることは、とても重要なのです。
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赤ちゃんの頃から歯みがきの習慣をつけて口腔の衛生状態を清潔に保つことは、その後のお子さんの健康にも大きく関わってきます。まずはお口に触れることからスタートして、歯みがきが好きな子に育てましょう
文/羽田朋美(Neem Tree )